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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)2585号 判決 1976年10月25日

原告 清永清

右訴訟代理人弁護士 山本政喜

同 美里直毅

同 伊藤紘一

被告 振興信用組合

右訴訟代理人弁護士 源光信

右訴訟復代理人弁護士 奈良道博

被告 金良洙

被告 藤井松蔵

被告 川口勝弘

被告 アトム機工株式会社

右四名訴訟代理人弁護士 山本栄則

同 渡瀬正員

同 名城潔

同 近藤説男

同 吉岡桂輔

同 西村寿男

被告 林俊輔

主文

一、被告振興信用組合は、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について東京法務局世田谷出張所昭和四九年一一月二五日受付第四一四四六号及び同目録(二)記載の建物について同法務局同出張所同日受付第四一四四七号の各停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

二、被告金良洙は、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について東京法務局世田谷出張所昭和五〇年三月一二日受付第八二五三号及び同目録(二)記載の建物について同法務局同出張所同年二月二一日受付第五七〇八号の各停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

三、被告藤井松蔵は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について東京法務局世田谷出張所昭和五〇年二月二四日受付第五八四二号及び同目録(二)記載の建物について同法務局同出張所同日受付第五八四三号の各停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

四、被告林俊輔は原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物について東京法務局世田谷出張所昭和四九年一二月一七日受付第四四五九八号の停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

五、原告の被告振興信用組合、同林俊輔、同金良洙、同藤井松蔵に対するその余の請求、及び被告川口勝弘、同アトム機工株式会社に対する各請求を棄却する。

六、訴訟費用中、原告と被告振興信用組合、同金良洙及び同藤井松蔵との間に生じたものは三分し、その一を原告、その余を右被告らの負担とし、原告と被告アトム機工株式会社及び同川口勝弘との間に生じたものは原告の負担とし、原告と被告林俊輔との間に生じたものは三分し、その二を原告、その余を同被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.被告振興信用組合及び同アトム機工株式会社は、別紙物件目録(一)記載の土地について同被告ら間で昭和四九年一一月二五日付をもってした停止条件付賃貸借契約を解除し、被告振興信用組合は原告に対し、同土地について東京法務局世田谷出張所同日受付第四一四四六号をもってした停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

2.被告振興信用組合及び同川口勝弘は、別紙物件目録(二)記載の建物について同被告ら間で昭和四九年一一月二五日付をもってした停止条件付賃貸借契約を解除し、被告振興信用組合は原告に対し、同建物について東京法務局世田谷出張所同日受付第四一四四七号をもってした停止条件付賃借権仮登記の 消登記手続をせよ。

3.被告金良洙及び同アトム機工株式会社は別紙物件目録(一)記載の土地について同被告ら間で昭和四九年一〇月一日付をもってした停止条件付賃貸借契約を解除し、被告金良洙は原告に対し、同土地について東京法務局世田谷出張所昭和五〇年三月一二日受付第八二五三号をもってした停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

4.被告金良洙及び同川口勝弘は、別紙物件目録(二)記載の建物について同被告ら間で昭和四九年一〇月一日付をもってした停止条件付賃貸借契約を解除し、被告金良洙は原告に対し、同建物について東京法務局世田谷出張所昭和五〇年二月二一日受付第五七〇八号をもってした停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

5.被告藤井松蔵及び同アトム機工株式会社は、別紙物件目録(一)記載の土地について同被告ら間で昭和四九年七月二九日付をもってした停止条件付賃貸借契約を解除し、被告藤井松蔵は原告に対し、同土地について東京法務局世田谷出張所昭和五〇年二月二四日受付第五八四二号をもってした停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

6.被告藤井松蔵及び同川口勝弘は、別紙物件目録(二)記載の建物について同被告ら間で昭和四九年七月二九日付をもってした停止条件付賃貸借契約を解除し、被告藤井松蔵は原告に対し、同建物について東京法務局世田谷出張所昭和五〇年二月二四日受付第五八四三号をもってした停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

7.被告林俊輔及び同川口勝弘は、別紙物件目録(二)記載の建物及び同(三)記載の土地について同被告ら間で昭和四九年一〇月三〇日付をもってした停止条件付賃貸借契約を解除し、被告林俊輔は原告に対し、同建物及び同土地について東京法務局世田谷出張所同年一二月一七日受付第四四五九八号をもってした停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

8.訴訟費用は被告らの負担とする。

二、請求の趣旨に対する被告振興信用組合、同金良洙、同藤井松蔵、同川口勝弘、同アトム機工株式会社の答弁

1.原告の請求をいずれも棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.原告は、被告川口勝弘(以下被告川口という。)に対して、昭和四九年九月五日、金一億円を貸し付け、これを被担保債権として、同日、同被告との間で同人所有の別紙物件目録(二)記載の建物(以下本件(二)の物件という。)及び同目録(三)記載の土地(以下本件(三)の物件という。)について抵当権設定契約を締結し、いずれについても東京法務局世田谷出張所同月一八日受付第三三一四六号をもって抵当権設定登記を経由した。

2.さらに、原告は被告アトム機工株式会社(以下被告会社という。)に対して、昭和四九年九月一〇日金一億五〇〇〇万円、同月一七日金一〇〇〇万円を各貸し付け、この合計金一億六〇〇〇万円の貸付金を被担保債権として、同日、被告会社との間で同会社所有の別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件(一)の物件という。)について抵当権設定契約を締結し、東京法務局世田谷出張所同月一八日受付第三三一四四号をもって抵当権設定登記を経由した。

3.被告振興信用組合(以下被告組合という。)、同金良洙(以下被告金という。)及び同藤井松蔵(以下被告藤井という。)は、本件(一)の物件について、被告会社との間で、それぞれ別紙登記目録(一)の(1)ないし(3)に記載された内容の停止条件付賃貸借契約を締結し、同目録記載のとおりの各停止条件付賃借権仮登記を経由した。

4.被告組合、同金、同藤井及び同林は、本件(二)及び(三)の物件について、被告川口との間で、それぞれ別紙登記目録(二)の(1)ないし(4)及び同目録(三)に記載された内容の停止条件付賃貸借契約を締結し、同目録記載のとおりの各停止条件付賃借権仮登記を経由した。

5.原告は、本件(一)ないし(三)の物件について、東京地方裁判所に任意競売の申立をし、昭和五〇年三月一四日、競売開始決定がなされ、本件(一)及び(二)の物件については原告が競落し、競落代金を完納して、右二つの物件の所有権を取得したが、本件(三)の物件については、競売手続は未だ完了せず、その所有権は被告川口に属したままである。

6.被告組合、同金、同藤井及び同林のための前記各停止条件付賃借権は、いずれも専ら右被告らの被告会社、同川口あるいは訴外株式会社モーダ・ベーラに対する債権を担保する目的をもって設定されたものであって、本来民法三九五条が保護しようとする用益権としての短期賃借権には該当せず、競売開始決定による差押の効力発生までに右条件が成就せず、いまだ右仮登記の本登記をなしうる状態にない場合には、当該物件の抵当権者もしくは所有権者は、抵当権もしくは所有権に基づき、右各停止条件付賃貸借契約の解除及び賃借権仮登記の抹消登記手続を求めることができるものと解すべきである。

よって、原告は被告らに対し、請求の趣旨記載のとおり被告ら間の停止条件付賃貸借契約の解除及び同各停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告組合)

1.請求原因1、2の事実は知らない。

2.請求原因3、4の事実中、被告組合が原告主張のとおりの停止条件付賃貸借契約を締結し、停止条件付賃借権仮登記を経由したことは認める。

3.請求原因5の事実中、原告が本件(一)及び(二)の物件について原告主張の経緯でその所有権を取得したことは認めるが、その余の事実は知らない。同6は争う。

(被告金、同藤井、同会社及び同川口)

1.請求原因1の事実は否認する。

原告が、昭和四九年九月五日、金一億円を貸し付けたのは被告会社に対してであって、被告川口に対してではない。

2.請求原因2の事実中、被告会社が原告主張の日時ころ、原告から金一億五〇〇〇万円を借り受けたこと、その際本件(一)の物件を担保に入れることを被告会社が承諾したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3.請求原因3、4の事実は認める。

4.請求原因5の事実中、原告主張の競売申立がされたことは認める。同6は争う。

三、被告林は公示送達による適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告の本件(一)ないし(三)の物件に対する抵当権設定について

1.被告林を除くその余の被告らと原告間では成立に争いなく、被告林との間においても、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証の二、三によれば、原告は、昭和四九年九月五日、被告川口に対し金一億円を貸し付け、この債権を担保するため、同人所有の本件(二)及び(三)の物件について、同人との間で抵当権設定契約を締結し、東京法務局世田谷出張所同月一八日受付第三三一四六号をもって抵当権設定登記を経由したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2.さらに、成立に争いのない甲第一号証の一(この部分(2)については、被告林に対する請求はなんら関係ないから、甲第一号証の一について被告林との間で真正の成立の認定の問題は生じない。)によれば、原告は被告会社に対し、昭和四九年九月一〇日に金一億五〇〇〇万円、同月一七日に金一〇〇〇万円を各貸し付け、この合計金一億六〇〇〇万円を担保するため、同会社との間で、同日、同会社所有の本件(一)の物件について抵当権設定契約を締結し、東京法務局世田谷出張所同月一八日受付第三三一四四号をもって抵当権設定登記を経由したことが認められ、右認定に反する証拠はない(被告会社が原告主張のころ、原告から金一億五〇〇〇万円を借り受けたこと、その際被告会社が本件(一)の物件を担保に供することを承諾したことは原告と被告組合、同林を除くその余の被告らとの間においては争いがない。)。

二、被告会社及び同川口とその余の被告らとの間の停止条件付賃貸借契約の締結及びその停止条件付賃借権仮登記について

本件(一)の物件について、被告会社と被告組合、同藤井及び同金との間で、別紙登記目録(一)の(1)ないし(3)記載の内容の停止条件付賃貸借契約が締結され、同目録記載のとおり停止条件付賃借権仮登記が経由されたことは右各当事者間に争いがない。

本件(二)の物件について、被告川口と被告組合、同金及び同藤井との間で、別紙登記目録(二)の(1)、(3)及び(4)記載の内容の停止条件付賃貸借契約が締結され、同目録記載のとおり停止条件付賃借権仮登記が経由されたことも右各当事者間において争いがない。

前記甲第一号証の二、三によれば、被告林は被告川口との間で、本件(二)の物件につき別紙登記目録(二)の(2)記載の内容のさらに本件(三)の物件につき同登記目録(三)記載の内容の各停止条件付賃貸借契約が締結され、同目録記載のとおりの各停止条件付賃借権仮登記が経由されたことが認められる。

三、原告の本件(一)及び(二)の物件の所有権取得について

成立に争いのない乙第三、四号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は本件(一)ないし(三)の物件につき東京地方裁判所に任意競売の申立をし、昭和五〇年三月一四日競売手続開始決定がされ、本件(一)及び(二)の物件については、原告自身が競落人となり、その競落代金を完納して右二つの物件の所有権を取得したが、本件(三)の物件については競売手続は未了で、その所有権は被告川口に属したままの状態にあることが認められ、右認定に反する証拠はない(本件(一)ないし(三)の物件につき、原告から任意競売の申立がなされたことは、原告と被告組合及び同林を除くその余の被告らとの間に争いがない。)。

四、本件停止条件付賃貸借契約の解除と同停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続請求について

1.そこで、先ず、本件(一)及び(二)の物件に関する停止条件付賃貸借契約の解除請求について判断する。

後記のとおり、本件(一)の物件に対する被告組合、同金、同藤井、本件(二)の物件に対する被告組合、同金、同藤井の各停止条件付賃借権は、民法三九五条にいわゆる短期賃貸借にあたらないのであるから、右停止条件付賃借権の基礎たる賃貸借を同条により解除することはできないものといわなければならない。仮に右の理論が認められないとしても、前記認定のとおり、原告は本件(一)及び(二)の物件の任意競売手続において、自らこれらを競落し、代金を完納して所有権を取得したのであるから、原告の右各物件に対する抵当権はこれによって消滅したことになる。そうとすれば、原告はもはや民法三九五条但書によって被告会社及び同川口とその余の被告らとの間の前記停止条件付賃貸借契約の解除を請求することはできないものというべきである。従って、いずれにしても、原告の右解除請求は理由がない。

2.本件(一)及び(二)の物件に関する原告の被告組合、同金、同藤井及び同林に対する停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続請求について判断する。

(イ)本件(二)の物件につき被告組合及び同林が有する停止条件付賃借権の存続期間がいずれも民法六〇二条三号所定の三年を超える五年であることは前記認定のとおりである。このような場合、賃借権者は民法三九五条の保護を受け得ず、そもそも賃借権をもって競落人に対し対抗しえないものであることはいうまでもない。従って、このような内容の停止条件付賃借権仮登記については、当該物件の競落人からその所有権に基づき抹消登記手続を求めることができると解すべきである。そうすれば、原告の被告組合及び同林に対する本件(二)の物件についての各停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続を求める請求は理由がある。

(ロ)抵当権は設定者から目的物の使用収益権を奪うものでないから、抵当権設定者は目的物を第三者に賃貸することができる。しかし、いったん抵当権が実行されると、競落人は目的物を抵当権設定登記のされた時の状態で取得し、抵当権設定登記以後に第三者が取得した賃借権は競落人に対抗できないのである。このような状態においては、抵当権の目的物の用益が事実上著るしく妨げられることになる。そこで、抵当権者の目的物に対する担保権(換価優先弁済権)と賃借人の目的物についての用益権との調和を図り、短期の賃貸借は抵当権設定登記後に登記されたものでも競落人に対抗できることとし、さらに、それが抵当権者に損害を及ぼすときは、抵当権者に短期賃貸借の解除請求権を与えて賃借権を消滅させることとしたのが民法三九五条の規定の趣旨である。

同条のこのような規定の趣旨に鑑みれば、抵当権と併用され、あるいは独立に債権担保の目的でなされた民法六〇二条の期間を超えない停止条件付賃借権仮登記においては、右賃借権は民法三九五条にいわゆる短期賃貸借ということを得ず、競落によって消滅すると解するのが相当であり、従って、競落人が目的物件の所有権を取得したときは、右仮登記の抹消登記手続を請求することができると解すべきである。

さて、被告組合の本件(一)の物件についての停止条件付賃借権の条件は、前記二で認定したとおり、三五番根抵当権確定債権の債務が履行されないときというものであり、前記甲第一号証の一によれば右賃借権仮登記は根抵当権の設定と併用されたものであることが明らかであり、さらに、本件(一)の物件についての被告金、同藤井、本件(二)の物件についての被告金、同藤井の停止条件付賃借権の条件はすべて金銭消費貸借上の債務の不履行であることも前記二で認定したとおりであり、このことよりすれば、これらの停止条件付賃借権の設定はすべて金銭消費貸借上の債務の担保のためになされたものであると認めることができる。そうすれば、他に特段の事情の認められない本件においては、前記説示により、被告組合、同金、同藤井の本件(一)の物件に対する、及び被告金、同藤井の本件(二)の物件に対する各停止条件付賃借権は、いずれも民法三九五条にいわゆる短期賃貸借ということを得ず、本件(一)(二)の物件の競落人たる原告に対抗できず、原告は右各停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続の請求をすることができるものといわなければならない。従って、これが抹消登記手続を求める原告の請求は理由がある。

3.原告の被告川口及び同林に対する本件(三)の物件に関する停止条件付賃貸借契約の解除、同林に対する右停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続の請求について判断する。

被告林と同川口間の本件(三)の物件に関する停止条件付賃貸借契約の条件は、前記二で認定したとおり、金銭消費貸借上の債務の不履行である。そうすれば、右2で説示したところにより、右停止条件付賃貸借も民法三九五条の短期賃貸借には該当しないものといわなければならない。従って、原告が同条によって右賃貸借の解除を求める請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。また、本件(三)の物件については目下競売手続が進行中で、原告が右物件の所有権を競落によって取得していないことは、原告の主張自体から明らかであるから、前記説示によってこれが停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続を求めることのできないことも明らかである。従って、原告の右抹消登記手続を求める請求も理由がない。

五、よって、原告の被告らに対する本訴各請求は、本件(一)の物件について被告組合、同金及び同藤井に対し、本件(二)の物件について被告組合、同金、同藤井及び同林に対し、右各被告らの停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続を求める限りにおいて正当としてこれを認容し、その余はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 河野信夫 裁判官谷敏行は職務代行終了のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 鈴木重信)

<以下省略>

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